フランス地方菓子紀行(1)東部編


1996年8月27日(火)<ディジョン〜ボーヌ>

ディジョンといえばパン・デピスPain d'Epices 。まずは「Mulot et Petit Jean:ミュロ・エ・プティ・ジャン」というお菓子屋さんへ。まだ空いていない。が、ショーウインドーにはパン・デピスがディスプレーされていて、購買意欲がむくむく。パン・デピスは、発酵生地にハチミツ、スパイス、時にはフルーツの砂糖漬けを加えたお菓子。小麦粉、卵黄を用いるものと、ライ麦粉をまぜて作るものもある。ハチミツの代わりに他の甘味料を入れ、保存がきくようにしたものもある。あせる気持ちを押さえて、もう1つの目的、触ると幸せになれるというふくろうを探しに行く。建物の角のちょうど手を伸ばして届く辺りにくぼみがあり、まわりと色が異なっている。触られてすっかりテカテカになり、丸く輪郭を浮き上がらせているのが、ふくろうといえばふくろう。いわれなけれはちょっとわからない物体。マナー通りに、右手の中指と薬指の間でふくろうを挟むように撫でる。そしてカメラに向かってにっこり。全員でこれをすると、あやしげな宗教の団体みたいだ。でもこのふくろうの話しガイドブックに出ていないのだけど・・。

さあ、これからが観光。イラスト入りの地図を片手に、番号の振ってある建物を目指して、オリエンテーリングのように趣のあるというか煤けた感じの旧市街を歩く。この古都の優雅さは、その黄金時代に当たる13世紀後半から16世紀にかけて北方ルネッサンス発祥の地、フランドル地方(現在の西北ベルギー)やドイツから多くの芸術家を集めた結果だという。華麗な屋根を持ったゴシック様式の豪邸がその特徴。町の中心に建つバロック様式の旧ブルゴーニュ大公宮殿(Palais des Ducs de Bourgogne)は1804年に破壊され、残っているのは1/3。現在はベルサイユ宮殿の設計者によって修復され、市庁舎と美術館になっている。その北側にある、正面のファサードが特徴的なノートルダム教会(Eglise Notre-Dame)は、残念ながら修復中でおおいがかぶさっている。おそるおそる中に入ってみると13世紀のステンドグラスが美しい。裏側にまわるとスリムな外観とすくっと伸びた青い三角の塔が良く見える。15〜17世紀にかけて建てられたルネッサンス様式のサン・ミッシェル教会(Eglise St.Michel)は、正面が調和のとれたデザイン。入口の櫛形の壁には“最後の審判”の浮き彫りが施されている。ニス塗りのタイル屋根に象徴されるサン・ベニーニュ寺院(Cathedrale St.Benigne)は10世紀建造。4度にわたる破壊のため、93mの鋭い尖塔は12〜13世紀の後期ゴシック様式になっている。地下に11世紀初頭の納骨堂が残っている。ディジョンで最も古い家並みが残るのが、フォルジュ通り(rue des Forges)。中世の趣のある古い館が建ち並ぶ。本来観光のハイライトであるはずの小ルーブルとも呼ばれる美術館(Musee des Beaux-Arts)は、火曜休館。

その代わりというか、芸術より食という旅の趣旨に戻ってというか、人で賑わうマルシェヘ。さすが食通の町、マルシェが大きい。生鮮食料品を扱う温室のような室内と、その周りに洋服やら生活雑貨を扱う露店がひしめき合っている。じゃあ解散して見学ということで、たくさんある入口から適当に入ってみる。野菜やチーズ、ピクルス、肉、もちろんパン・デピスの店などが整然と並んでいる。パン・デピスは、いかにも手作りという感じの、しっとりしたハチミツの多そうなタイプのものと、クッキーのように焼いてあるものがあったので、両方買ってみる(10FF)。角の方でヤミ商人っぽいおじさんがジロールを売っている。マルシェに続く道も商店街で、マスタードやチーズ、パンを売る店が続く。さすがにマスタードは本場らしく、メーカーも大きさも種類も豊富。お土産用にと小さな瓶のもの(4FF)いくつかと、エストラゴン風味のもの(7FF)を買う。M嬢はミニを10何個も買っていたが、持って帰れるの?それからチーズ屋さんで表面をマールで洗った小さなエポワスEpoisses(10FF)と、パン屋さんでこの地のものというグージェールGougere(6.2FF)というシュー生地にチーズを練り込んで焼いたものを購入、熱いうちに試食。

そして、集合し、全員で朝方覗いたパン・デピスのお店に。ノーマルのパン・デピスは思ったより軽く、パウンド型のカンパンのよう。そういえば朝、ホテルでスライスしてパックされた茶色のパンのようなものがあったが、あれがパン・デピスだったとは。翌朝それを2〜3個ポケットに忍ばせたのは、言うまでもない。ここで買ったのは、パウンド型のパン・デピス(18FF)、箱入りでレーズンサンドのようにリンゴジャムやマーマレードを挟んだもの(8個入り各37FF)、特産品のクレーム・ド・カシス(黒すぐりのリキュール)のボトル(58FF)とミニチュア(16FF)、幸せを持ち帰るためにふくろうの小さな陶器の置物(15FF)。一気にお土産リストをクリアする。他の方にはパン・デピス入りのくまのマークのキャラメルが好評。コルク型の一口サイズのパン・デピスを買った人も。それから、日本でも有名な「Maille:マイユ」に飛び込むと、なんと店を締めるという。どうやら昼休みらしい。せっかく入れたと思ったのに、商売っ気の全くない店員さんに追い出される。

未練を残しつつ、午後のワイン蔵に備えて、ブラッセリーに入りランチタイム。これから飲むというのに、舌ならし(?)とばかりに、キール(白ワインにクレーム・ド・カシスを入れたもの)をオーダー。みんなは軽くサラダとかを頼んでいるが、郷土料理とあっては避けて通れないので、卵の赤ワイン煮Les oeufs en meuretteをM嬢とシェアする。ポーチドエッグをワイン色に煮込んだものだが、中は半熟。ベーコンがのっていて、なかなかおいしい。ただ、1人で卵3個は辛いよね。そしてやっぱりあきらめきれなくて、会計をまわりの人に頼み、M嬢と2人そそくさとトイレに行き、走ってパン・デピスの店に戻り、マスタードを買い足す。ピンク色のカシス風味のもの、白ワイン風味、にんにく風味(各7FF)。

“ブルゴーニュ・ワインの首都”といわれるボーヌBeauneは、中世ブルゴーニュ公領の都として栄華を極めた。ボーヌ一帯はコート・ドール(黄金の丘)と呼ばれ、ぶどう畑が広がる丘陵地帯。無数のドメーヌが軒を連ね、ワインの一大生産地を誇る。ワインの王様、ブルゴーニュには、他にシャブリ、マコネ、ボージョレ等の産地がある。代表的な品種は

○ピノ・ノワール Pinot Noir
 赤ワイン。ブルゴーニュ地方の最優良品種。タンニンが少なく、フルーティな香りが熟成するにつれ、アロマティックに濃厚さを増す。
○ガメイ Gamay
 赤ワイン。ブルゴーニュ南部ボージョレ地区の品種。古い歴史ある産地。フルーティで軽やかな味わい。
○シャルドネ Chardonnay
 白ワイン。きりっとした酸味と豊かな果実味は、非常にすぐれた辛口。
○アリゴテ Aligote
 白ワイン。カシスを割ってキールに。

そして訪れたのは、地球の歩き方にも載っている、1780年創業の「Patriarche:パトリアッシュ」という有名なネゴシアン(酒商)のカーヴ。40FF払って中に入ると、ワインのリストとタスト・ヴァン(きき酒用のカップ)が渡される。地下に下りると埃のかぶった瓶が積み上げられている。迷路のような通路を進んでいくと、試飲のコーナーに着く。樽をテーブルにして、上にワインとろうそくが置かれている。係の人が全員にワインをついで、説明をしてくれる。早速白ワインからテイスティング。

<白ワイン>
○Bourgogne Chardonnay 1992 55FF。きりっとした味わい。
○Petit Chablis 1993 68FF。酸味。
○Saint-Aubin 1985 85FF。フルーティ。

<赤ワイン>
Chateau de Marsannay
○Marsannay 1992 98FF。
○Hautes Cotes de Beaune 1994 58FF。いがいがする。
○Beaune Champs-Pimont, 1er Cru 1988 159FF。まろやか。
Hospices de Dijon
○Aloxe-Corton, Cuvee Jean de Berbisey 1993 145FF。ぴりぴりする。樽臭い。
○Gevrey-Chambertin 1989 175FF。まろやか。くせがない。
○Nuits-Saint-Georges, Les Pruliers, 1er Cru 1982 189FF。後から渋み。甘い。
Hospices de Beaune
○Beaune, Cuvee Guigone de Salins 1992 249FF。甘い。フルーティ。
○Richebourg, Grand Cru 1977 259FF。ハチミツの味。苦くない。一押し。
○Auxey-Duresses 1988 79FF。うすい。
○Volnay 1982 169FF。ぴりぴりする。

リスト以外に95年のアリゴテ(Aligote)とムルソー(Meursault)をひょいっと開けてくれる。一通り飲んで、また戻って確認したりして、味比べ。赤はやはり高いものがおいしい(と感じてしまう)。買ったのは
○Bourgeottes(AC Bourgogne Aligote,Patriarche Pere & Fils) 1994:48FF。キール用に。
○Cotes du Luberon, La Bichette(Albert Bichot) 1995:ハーフで59FF。

すっかりほろ酔い気分になって、次はオテル・デュー(Hotel Dieu:市立病院)の見学。22FF。木目込み模様の華やかな屋根瓦の特徴を持つ後期ゴシック様式の建物で、1443年にブルゴーニュ公国大法官であったニコラ・ロランが建立した貧民救済のための慈善院。50haものぶどう畑を所有し、その収益で無償で病人の看護をしたという。11月第3日曜には、栄光の3日間と名付けられた世界的なワインの競売が行われる。当時のままのチャペルや、第2次世界大戦中も使われたという大病棟の小さなベッド、薬の容器が並んでいる調剤室、人形が作業を再現している中世の台所等を見学。ボタンを押すと解説が流れるようになっている。付属の美術館にはフランドルの画家ワイデン作の祭壇画“最後の審判”がある。病院前はワイン取引所になっている。ボーヌは穏やかな気候と、自然の恵みに支えられた、豊かなワインの町である。

再び、ディジョンに戻り、ディナー。雨がぱらつく中、「l
'Etoile:レトワール」という石造りのレストランへ。中はかなり広い。100人はゆうに入れそう。当然キールを、と思ったのは私だけ。F氏が付き合ってくれる。前菜は4種類頼んで取り分ける。2種類のパテのパイ包み、テリーヌ、卵の赤ワイン煮、サラダ。卵は昼間のものと大分味が違う。名物エスカルゴは全員でシェア。メインは牛肉の赤ワイン煮込みBoeuf Bourguignon、じゃがいも添え。
 

   

ワインはラベルがかわいいボージョレのモルゴンMorgonと赤ワインづくし。デザートには色々なチーズを混ぜてオリーブ油に漬け込んだものというのをとってしまうが、これが大失敗。臭くて食べられない。1つ1つはおいしいのだろうに。でもブルゴーニュを堪能することができた。